放浪記
林芙美子 作 昭和3年(1928年)
◇あらすじ
貧困にあえぎながらも向上心を失わずに強く生きるひとりの女性―日記風に書きとめた雑記帳をもとに構成した著者の若き日の自伝。
この小説の後半、愛人を失った寂しさと父母を助ける生活苦で疲れた林芙美子は、直江津への旅を思い立つ。
◇登場する箇所
「古い時刻表をめくってみた。どっか遠い旅に出たいものだと思う。真実のない東京にみきりをつけて、山か海かの自然な息を吸いに出たいものなり。私が青い時間表の地図からひろった土地は、日本海に面した直江津と云う小さい小港だった。ああ海と港の旅情、こんな処へ行ってみたいと思う。これだけでも、傷ついた私を慰めてくれるに違いない。・・(中略)
夜。
直江津の駅についた。土間の上に古びたまま建っているような港の駅なり。火のつきそめた駅の前の広場には、水色に塗った板造りの西洋建ての旅館がある。」
この後長い木橋から川の流れを見ていると、鳩の死骸が流れてきて、死ぬことを思う。しかし、駅前の三野屋の継続団子を食べているうちに、「あんなにも死ぬることに明るさを感じていたことがばからしくなってきた。」「生きて働かなくてはいけない」と思い、夜汽車で帰る。
継続団子