杉 みき子


画像出典 : 『頸城文学紀行』より
小林勉・著 耕文堂書店
本名小寺佐和子
出生年昭和5年(1930年)
出生地新潟県高田市(現在 上越市)

略歴

昭和25年(1950年) 長野女子専門学校、国語科を卒業
昭和32年(1957年) 『かくまきの歌』他の短編で日本児童文学者協会新人賞を受賞して文壇に進出した
郷土の先輩「小川未明」を手本として学ぶ
新潟日報お母さんの童話に入選
昭和47年(1972年) 『小さな雪の町の物語』では小学館文学賞を受賞
昭和58年(1983年) 『小さな町の風景』では赤い鳥文学賞を受賞
『白い道の記憶』で新潟県同人誌連盟賞を受賞
日本児童文学者協会会員

代表作

◎最近出版された本
画像出典 :
『小さな町の風景』 杉みき子・著 佐藤忠良・絵 偕成社
『雪の上のあしあと』 杉みき子・著 村山陽・絵 恒文社
『寺町だより』 杉みき子・著 村山陽・絵 新潟日報事業社

 「きびしい生活条件を負った裏日本に住む人々の哀しさと美しさを描きたいという作者の念願は未明の精神と貫流するものがある。」  (「越佐文学散歩」(下巻)による)



作品紹介


小さな雪の町の物語


杉みき子 作
昭和47年(1972年)

 この本は15の短編からできています。
 冬を舞台にした話が、「冬のおとずれ」「きまもり」「走れ老人」「小さな旅」などです。

画像出典 : 『小さな雪の町の物語』 杉みき子・著 佐藤忠良・絵 童心社
◇作品の紹介
「冬のおとずれ」
 曇り日の似合う町にきんもくせいが匂うころ、冬が始まる。子どもの息が白くなり、この町のもっとも美しい季節の幕がひらく。

「きまもり」
 「落ちたら落ちたときの寿命でしかたないけど…、なりくだものをもぐときは、きまもりといってね、ひとつでもふたつでもいいから、枝に残しておくんだよ」そして加代は、ひとつだけ一生その木を守って朽ちていくように運命づけられた実があるとそんな気がしていた。

「風と少女」
 激しい風だった。少女はかさを片手に歩く。海鳴りとも風ともつかぬうなりがどろどろと響く。そのとき、少女は鳥を見た。力をふりしぼって、風にさからい続けている飛翔をみまもり、そしてわかった。「あれこそ、生きているということ。」少女は鳥になる。

「マンドレークの声」
 「まるでマリー・セレストだ」と夫がつぶやいた。誰もいない家には、なまなましい日々の生活のあとだった。―わたしはこの茶わんを洗う、あすもあさっても、この家で、この茶わんを使うから。いつまでも続く生活、日々の生活のために。
けれどもあの家の主婦にあすはなかった。

「走れ老人」
 雪の一本道を通るには、むかしから変わらぬ約束ごとがある。おじいさんはこの約束ごとを守り走る。わたしは笑った。わけもなく楽しくなって、今度は自分も走ってみようと思った。

「三本の木の絵」
 雪のちらつく朝、大学の窓をみると、カンバスが立ててあり、あまりうまいといえないのに、その絵に心をひかれた。単純すぎるほどの絵だけど、不思議にたしかな実在感があった。

「小さな旅」
 祖父に届ものをする用ができて、吹雪の中、汽車やバスに乗り、歩いて向かった。少年は吹雪の野にひとり取り残された。少年は初めて恐怖を感じた。そのとき、だれかの声をきいたと思った。―吹雪にあったら頭をさげるな。吹雪をにらんでいけ。その声は祖父の声に似ていた。少年は立ち上がった。

「せまい道」
 夕べは、あまり降らなかったらしく、雪の上には二本のスキーのあとがあり、わたしは、そのあとを一歩一歩埋めながら進む。幼いころのことを思い出す。杉の木を巧みに使い、子どもたちで木と木の間を滑っていた。私はみごとに滑りぬけることができたときのうれしさは、今も思い出すと胸に熱いものを感じる。

「ゆず」
 ―あ、ゆずのにおい。 少女はゆずを両手に抱いて、おばあさんの案内をしていた。家に着いたらおばあさんは、「お礼ともいわんねぇようなお礼だども…」あくる日が暮れると少女は気づいた。そうか、これがあのおばあさんのお礼だったのね。 手袋にはゆずのすがすがしい香りがしていた。

「飛翔」
 少年が幼いころから、ジャンプ選手になりたいと願ったのは、大シャンツェに登ると、海が見えるから。だけど一瞬のできごとでもう一秒あったら、海が何を語りかけているのかわかる気がする。―いつかは、きっと。年は流れ、競技会で少年はジャンプをし、そしてその瞬間、空中にも、地上にも、少年の姿はなかった。

「ともしび」
 その学校へ来て初めての冬のことです。わたしは道に迷ってしまいました。そこに灯を見つけたんです。中からひとりおばあさんが戸をあけてくれたとき、みるみる花がしぼむようにさびしい表情に変わっていったのです。そのおばあさんは戦争に行っている息子を待っているのです。

「南からの手紙」
 めっきり寒くなりましたね。きのうは珍しいことに雪がちらほら舞いました。わたしたちの町内の婦人会では、旅行に行き、夕食となると、スキー汁を食べました。ふるさとはほんとうに不思議なものですね。思いもよらないところで見つけ出させてくれるんですもの。

「雪の音」
 雪がしんしん降る。子どもは宵から寝そびれた。枕もとに、太い柱がある。子どもは耳をおしあててみた。なにかがささやいている。20年後、母と娘は柱に耳をあてた。―遠くのお山の上で、杉の木がお話してる。

「おばあちゃんの雪段」
 おばあちゃんのつとめは道つけである。しかし、早起きはつらかった。だから若い嫁に自分の仕事を譲った。冬が来た。嫁の道踏みを見たおばあちゃんは、すこぶる要領の悪い、しまりのないものに見えた。おばあちゃんの道つけは40年以上もしていた。嫁はおばあちゃんの雪段を見て、感激した。

「春のあしあと」
 春が来て、山のいただきをおおう雪がしだいにとけはじめるころ、残雪が山肌に描き出すさまざまなかたちは、どの地方でも季節のうつりかわりを告げる身近なめやすとして親しまれる。妙高山の「はね馬」と、南葉山の「種まき男」は、この地方に冬の終わりを告げるしるしである。



長い長いかくれんぼ


杉みき子 作
平成13年(2001年)

画像出典 : 『長い長いかくれんぼ』 杉みき子・著 村山陽・絵 新潟日報事業社
◇あらすじ
「ペンキ屋さんの夢」
 「いつまでねてるんですかぁ。もうとっくに朝なのに、ペンキ屋さんがねていちゃこまりますよう」などといって戸をたたく風のおじいさん。「はい、はい、いますぐ」と答えるペンキ屋さん。ペンキ屋さんの仕事は、空という大きなキャンバスに白いペンキで雲を書くことです。この日は大忙し。東の空に西の空。大きな海にも行きました。大きな海では、入道雲を書きました。それは、書いているうちに、ずんずん大きくなってペンキ屋さんは、すっぽりとのみこまれてしまいました。「父ちゃん、父ちゃん。まだおひるねしてるの。早くお起きよ、お客さんだよ」ペンキ屋さんは、今度こそほんとうに目がさめました。

「ふしぎなビー玉」
 次郎は、きれいなビー玉をひとつ持っていました。ふつうのビー玉よりも、ひとまわり大きくて、すかしてみると白いガラスの中に、まっかな火がめらめらと燃えているように見えました。このビー玉は、ある日、なにげなくポケットの中に手を入れたら、ほかのビー玉にまぎれて入っていたのです。次郎は、このビー玉をとても大切にしました。いつも、ポケットに入れていても、決して使ったことはありません。ですから、ビー玉はつやつやと輝いて次郎の宝になりました。ある夜のこと、次郎はおかしな夢を見ました。飛行機に乗っていてしかも、自分で操縦しています。ところが、突然、故障してしまい飛行機は上に昇っていくばかり。そのとき次郎はなんだかビー玉遊びがやりたくてたまらなくなったのです。あの大切なビー玉をポケットからとりだしたとたん、大きな夕やけ雲になって飛行機を包んでしまったのです。そこで、目がさめました。

「炎の木」
 太陽は、めらめらと炎をあげて燃えていました。消えては、また燃え上がるその炎の形を見て、神さまは(こんな力強い美しいものを人間の世界にも与えてやりたいものだ)と思い、炎のひとつをすくい取ると、そうっと地面に投げてやりました。初めて降りた地球、初めて見た景色、なにもかもがすてきに思えました。でも、楽しかったのは、はじめだけ。だんだんさびしくなって、ついには、太陽に帰りたいとまで思いました。そんなとき、ひとりの画家がやってきて、絵を書きはじめました。とても熱心に炎の木を書いていたのでとてもうれしくて、てっきり友達だと思っていました。ところが、その画家は、だんだん来なくなりました。画家が来なくなってから、しばらくして、風のうわさで聞きました。なんと亡くなっていたのです。炎の木は、悲しくて、悲しくてついには枯れてしまいました。2人が、この世界からいなくなった後、あの画家の描いた絵が世界中の人に愛されるようになりました。

◇その他の作品
「三本のマッチ」 「えんとつのなかまたち」 「子すずめと電線」
「ふしぎなこと」 「おぼろ月夜」 「音」
「空気食堂」 「花作りのおじいさん」 「おじぞうさまと鬼」
「あくまの失敗」 「あじさい」 「百ワットの星」
「森のそめものや」 「くもの電気やさん」 「坂みち」
「雪の一本道」 「おばあちゃんの雪見どり」 「さんぽするポスト」
「朝市にきた女の子」 「雪のテトラポット」 「ばんばら山の大男」
「やねの上のどうぶつえん」 「とび出しちゅうい」 「あの子に会う日」
「あしあと」 「十一本めのポプラ」 「防風林のできごと」
「月夜のスキーリフト」 「雪道チミばなし」 「雪の日のアルバム」
「長い長いかくれんぼ」


◇作品について
 この本には、34の短編が入っています。前半は、杉みき子が20代後半、童話を書き始めたばかりのころ新聞に発表した習作です。後半は、そのあと現在まで、新聞・雑誌などに発表したまま、本にまとめる機会のなかった作品を選び収めたものです。